[戻る]
動物愛護の日にちなんで  2004.9.17


      湘南獣医師会 松川忠夫(1997年執筆)

 毎年9月20日から26日までの一週間が動物愛護週間と定められて23年になります。 私たち湘南獣医師会は、時代の流れとともに広報活動の必要性を痛感し、上部団体である神奈川県獣医師会が1965年、当時の県獣医師会長であった前 薫彦先年などを説得し、同年7月に日本獣医師会や各畜産団体等の賛同を得て、第1号の神奈川県獣医師会報を発行しました。

 以来欠刊することなく各界のご協力をいただき、毎月発行を続け今日に至っております。その間、多くの貴重な寄稿をいただき、かつさまざまなご指導をいただきましたが、残念ながらすでに故人となられたかたもおります。その中の一人に、永年獣医師として県衛生部に勤務されていた中島 覚というかたがおり、多くの人たちから「カクさん」と親しまれていました。その「カクさん」が我々に折にふれていっていた動物愛護協会についてお話します。

 既に力も衰えた徳川幕府が米英その他の列強の脅迫に負け、諸国と修好通商条約を蹄結し、その発効によって横浜をはじめ五港が開けたのが安政6年6月でありました。

 すると五港には待ってましたとばかりに多くの外国人が定住するようになりました。日本人が外国に行った場合も同様と思いますが、これらの外国人は恐らく好奇の目を見張って、日本人の風俗、習慣などを細かに観察したに違いないと思います。所変われば品変るで、日本人と自国民との間の人情、風俗、習慣など多くの相違点を発見したと思います。

 その数ある相違点のうち期せずして観点が一致したことは、日本人の中で大人も子どもも動物を虐待する者がいるということでした。

 外誌によると、「列を挙げれば街道を往来する馬子たちが貧弱な、やせ馬を公衆監視の中で叱咤酷使するかと思えば、いたいけな小児が罪もない犬や描そして小鳥を目のかたきのように、木片や石を投げたりしてしたり顔でいるのを親たちも通行人も当然のように看過していた。」

 要するに日本人は腹切りを名誉と心得る国民であるだけに、先天的に残忍性を持っているのではないか。これは末恐ろしいと、とんだ憶測をしたかどうかは不明であるが、とにかく衆人監視の中で牛馬を酷使したり、愛すべき犬や猫それに小鳥までに迫害を加える行為は、キリストの人道博愛精神にも反し、平和を愛好する文化国家としては恥ずべきことであるとして、第一次世界大戦後の東京において米国大使館付きのバーネット中佐夫人や赤坂霊南坂教会大司教などが主唱して、日本人道会が結成されました。これに付随して1800年代に英国が提唱して設けられた、動物虐待防止会を導入して盛んに動物愛獲活動を展開しました。

 この運動が神奈川県へも伝わり大いに結構なことだから、この上は本県独白の力で動物愛護活動をやろうということになりました。そこで当時、有名な社会事業家である渡辺たま子女史を母堂とする横浜銀行頭取渡辺利二郎氏が会長となって神奈川県動物虐待防止会が設立されました。そして県知事や横浜市長、各国領事、実業家、根岸競馬場理事長のS・アイサック氏など多数の名士を賛助会員として事務所を県庁社会課に置き、岡部貞吉氏が事務長となり活発な動物愛護活動を実施しました。

 その事業としては、横浜市内の高島町駅、桜木町駅などに自動車がまだほとんどなく牛馬車が活躍していた頃、牛馬車に過重積載などの虐待使役を防止したり、目に余るものは警察に告発したりしました。今では牛馬が荷車を曳く光景はほとんど見られなくなりましたが、当時は夏になると麦藁帽子をかぶった姿で荷車を曳いている牛馬を見かけたものです。

 戦後五十余年が経過しましたが、連合軍の占領下にあった頃、英国大使夫人ミセス・ガスコインが熱心な動物愛護家で母国に本部のある動物愛護協会の出店を東京に設けました。そのときに、狂犬病予防法が施行されると、彼女は遠近を問わず各地の犬の抑留所を巡視し、施設や犬の取扱いの適否について熱心にアドバイスをしました。また、夫人と同行していた内山元県知事夫人も呼びかけに応えて、県内に動物愛護協会支部を設置し動物愛護活動を展開しました。鎌倉においてはすでにご夫妻とも亡くなられましたが、作家の小島政二郎夫人のみつ子さんが熱心な活動をされ、我々鎌倉在住の獣医師も熱のある協力をしました。

 このように変遷を経たのち、我々が強く要望していた動物の保護管理に関する法律が1974年4月1日に施行され、これを機に元社会党国会議員の大出 俊氏などの努力で9月20日からの一週間が動物愛護週間となったものです。

 そして現在でも毎年、県獣医師会各支部が交替で、動物愛護事業を催している起源はここにあり、今後も、この事巣が継続して実施されることを念願します。



*1 このコラムは1997年(平成9年)9月の『鎌倉衛生時報』に掲載されたものです。

*2 動物の愛護及び管理に関する法律第4条
「ひろく国民の間に命あるものである動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深めるようにするため、動物愛護週間を設ける。」

*3 「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)は、動物の虐待防止や適正な取り扱い方などの動物愛護に関する事項、人に対する危害や迷惑の防止などを図るための動物の管理に関する事項を定めた法律で、昭和48年9月に「動物の保護及び管理に関する法律」として、議員立法で制定されました。さらに、平成11年12月第146回国会において改正、名称変更され、平成12年12月1日から施行されています。
 法律の対象となる動物は、家庭動物、展示動物、実験動物、産業動物などの人との関わりのある動物とされています。